地元 鹿児島にまつわる好きな食べ物について

食い意地が張っているのを人に悟られるのがいやで食べ物についてはあまり書いたり語らないようにして来たが、昨年あたりから特に地元鹿児島に関する食に本格的に目覚めてきてしまったので、地元にまつわる好きな食べ物について書きました。

 

一、さつま揚げ(つけあげ)

これが芋焼酎ととにかく合う。秋冬、早春の晩酌は絶対に芋焼酎のお湯割りとさつま揚げ。個人的に、さつま揚げは串木野の勘場さんのものが柔らかく、味つけも濃すぎずちょうどよくて好きです。上棒天と、特上つけあげと、つけあげと。いつも3つはセットで買い求めてしまう。誰かへの贈り物にするなら徳永屋さんかもですが、普段のちょっぴり贅沢な食事は、最高級のものじゃない方がけっこうよかったりします。

f:id:yominokuni0801:20220124182920j:plain

昨年、京都の住まいに取り寄せたさつま揚げ。
ちなみに我が家の場合ですが、鹿児島の実家でも
「さつま揚げ」(イントネーションは鹿児島弁)と言います。

焼酎も同じ。県外の人からは魔王や村尾などが有名なのかもしれないのですが、さつま揚げと一緒にいただく普段の焼酎お湯割りは、まずはやっぱり白波。癖がないし柔らかいのでとにかく何にでも合う。誰かを芋焼酎の世界に招待するなら白波だと私は思います(ちなみに白波のおかげで、私は妹を焼酎に目覚めさせることに成功しました。これでお互い気を遣わない飲み友ができた。やったー!)。

f:id:yominokuni0801:20220124183014j:plain

可愛かったので実家から京都に戻るときに買い求めた小瓶の焼酎。

つぎに伊佐美。果実感があって華やかで可愛い。お菓子にも合うので〆によし。鶴見もまろやかで芋の甘さがちゃんとあって良い。よく言われるほどクセとかはないと思う。一言でいうと「愛です」。昨年ご招待いただき伺った仙巌園の「焼酎エクスペリエンス」では、初雪がちらつく中で限定版の白波もいただきましたが、あれもよかった。結論、お湯割りは最高。焼酎:お湯=6:4がちょうどよくて好きですが、最近は元気がないので目感で5:5にしています。さつま揚げを単体で語ることができないように、焼酎も単体では語れない。とにかくお酒が好きで焼酎だけ飲むと言う人もいるのかもしれないけれど、地酒はまず地元のお料理と合うように作られているので、やっぱり一緒に楽しくいただくのが一番だと私は思うのです。

f:id:yominokuni0801:20220124183141j:plain

伊佐美はラベルがとにかく可愛い。

ところで飲むときは一人か、母と妹と飲むか、あるいは地元の人間と飲むのが一番楽しい。遠慮したり介抱する心配があまり…否、ほぼないので。親戚みたいに会ってくれる地元の知り合いの人たちは、何杯飲んでも顔色も態度も変わらないか、飲んでもただ楽しくなるだけなので本当に安心して飲める。酒に愛されし母方の遺伝子を贈られた身体であることだけは、生まれて来てよかったと思えることの数少ない一つです。

二、お菓子

鹿児島銘菓・ボンタンアメは、生まれてまだ間もない頃、母方の祖母がよく送ってくれました。あのもちもちとした食感とオブラートのぺりぺりした膜がとても好きで、口に含む前にひし、と指でつまんで眺めた後、口の中でモチャモチャするのが楽しかった。オブラートを噛む時の音も面白いです。大正生まれの意匠のままほとんど変わらない包装も大好きで、中身をすべて食べおわった後も、折り紙のように折って小さな鞄の形を作ったりしていました。あれは確か手先が器用な祖母がまず空の箱で鞄を作って送ってくれたような気がする。そのあと母がそれを見て再現してくれていたのだったかな。鹿児島で生まれたあと2、3歳ごろまで東京に住んでいた私は、荷物の包みいっぱいに詰められたボンタンアメの箱にきらきらした気持ちになったものです。信じてもらえなくてもいいのだけど、明確な記憶のつながりはないものの、幼少期の断片的なイメージは意外にはっきりと残っている。

f:id:yominokuni0801:20220124183507j:plain

鹿児島の実家にて。この箱を売店で見かけると帰って来たのだと安心する。

和菓子なら最近は餡子系。幼い頃から慣れ親しんだ鹿児島銘菓「軽羹」が近頃かなり好きです。大学在学中から地元に愛着が湧き始めていたのですが、昨年さらに地元愛がヒートアップしました。理由はよく分からないけれど、このご時世で地元に帰りたい時にすぐ帰れないことがあったりして、帰りたい欲が強まったのかもしれない。

f:id:yominokuni0801:20220124183639j:plain

我が家は昔からずっと明石屋さん派です。京都の骨董屋さんで入手した小皿とともに。

あと、月寒あんぱんにも最近ハマりました。これは鹿児島のお菓子ではないのですが、元々、地元の老舗にして唯一の百貨店「山形屋」には一年に一度、北海道物産展が来ていたのでそこで手に入れるのが楽しみでした。それが、最近読み始めた北海道が舞台の漫画『ゴールデンカムイ』の影響でさらに好きになりました。その漫画の中で、月寒あんぱんは鹿児島県某所にて食べられる描写がなされます。

f:id:yominokuni0801:20220124183918j:plain

月寒あんぱん。自分でお取り寄せしたのは何気に初めてだった。
シールは手帳に貼って保存している。

そういえば昨年の焼酎の後の〆はだいたい軽羹か月寒あんぱんでした。楽しかったな、仕事のあとの一人晩酌。『坂の上の雲』を観ながらよく飲んで〆てました。(あれは半分以上フィクションとして楽しむものですが、日本すごい!と素朴に思い込んでしまう危うさがあると個人的には思う。特に経済的・政治的に不安定な情勢が続く中では、何かすがれるものに飛びつきたくなる気持ちが出てくる。話が食べ物から脱線するけれど、いわゆる右派でも左派でもリベラルでも、自分がどのような状態に置かれていて、何にすがっているかをメタに認識しようと意識できない状態で何かを声高に主張するのはどうなんだろうと思う今日この頃です。もちろんこれは、自分を含めて。)

ちなみに普段はチョコレートがなければ生きてゆけないほどカカオが好きです。カフェイン中毒と慢性的なカルシウム不足から異様なほど食べる。コロナワクチン摂取後に気が狂ったかと思うほど食べたのは、お粥とアルフォートでした。あと、実家に帰ったらロイズの生チョコレートがあったので、あっという間に食べてしまいました。柔らかくて甘くて食べやすいものが好きだ。逆に、堅くてパサパサ、ガリガリしたものは全然興味がない。おせんべいとか。柿ピーとか。母と妹は好きなのに。でもポテチやじゃがりこならば、たまに食べます。この辺りの好みが本当によく分からない。じゃがいも系が好きなだけかもしれない。食の好みがもさっとして垢抜けないのですが、でもそれが好きなんだから仕方がない。

三、サッポロ黒ラベル

f:id:yominokuni0801:20220124184519j:plain

居酒屋を選ぶ基準が、黒ラベルがあるかどうかになってしまった。

これも昨年からハマったものです。薩摩藩士・村橋久成が工場を東京ではなく北海道に作ることを提案して生まれた麦酒。確か2017年の大河ドラマ西郷どん』放送時に合わせて、村橋久成が印刷された鹿児島限定パッケージが売り出されていたような。

私はこれまで麦酒よりはチョコレートと合うワインや安心する香りでよく眠れる芋焼酎しか飲まない方だったのだけれど、ふとしたきっかけで黒ラベルを飲んでからというもの、飲むたびに地元・鹿児島の方角を向いて村橋久成に感謝するほどハマりました。ありがとう、村橋久成さん…。(そして北海道の大地。そこには明治期の開拓をめぐる支配・被支配という政治の歴史があり、本当は簡単に「ありがとう」などとは言えないのだと思います。支配者の子孫として私が考えたり伝えたりできる思考や言葉はなお模索中です。けれど、少なくともその地で生まれた麦酒を飲む時に出る言葉は、様々な考えを含めて「美味しい」「ありがとう」の言葉に尽きます。)

実を言うと、麦酒には、水っぽさがあったり、香水のような変な匂いのするものというイメージがあって(いつも実家に麦酒をお中元で送ってくれる方、ごめんなさい…)苦手だったのですが、このサッポロ黒ラベルはそうしたイメージを覆してくれるものでした。カラッとしていて、とうもろこしの匂いがふわっと香って、飲むだけで「夏」のイメージが思い浮かぶような味。汗をかいて作ったゴーヤチャンプルーと食べると止まりません。危険です。昨年の夏。リモートの仕事終わりにそのままプシュッと部屋で缶を開けて一気飲みするのが楽しかったなあ。当たり前だけれど、去年の夏は一度きりで戻らない。夏生まれの私は、夏が季節の中でいちばん好きなのかもしれない。暑いのは嫌いだけれど、夏は好き。麦酒は「夏」のお酒だと個人的には思っている。

 

食について書いてみたけれど、そうするとその食を味わうのにぴったりな季節や環境に話が膨らみ、そして食とともに作られた記憶やささやかな思い出がよみがえる。

あの楽しかったひと時は、二度とは戻らない。人生は不可逆的で一度きりだ。戻りたい時間に戻れないことはとても悲しいけれど、過ぎ去ってゆく時の中で、少しでも食を通して楽しい時間をまた作れたらいい。