絵本のなかの世界

幼い頃、母は私にたくさんの物語についての絵本を贈ってくれた。その贈り物は、自身も両親から美しい本を贈られたことが嬉しかったからという母の思いからもたらされたのだった。そうしてまた、私が幼稚園に入ってからもまわりの人間には慣れ親しまずに一人空想の世界に遊ぶような子供だったことにより、物語はわが家の本棚に順調に増えていった。

地元でいちばん歴史のあるプロテスタントの幼稚園に通っていたこともあってクリスマスなどにプレゼントされた福音館書店のものをはじめ、ポプラ社にこぐま社、偕成社童心社のものなど、古今東西の物語を美しい絵と言葉に纏めた数多くの本たちは、いまでも実家の本棚に置かれている。

実家を出てから、今ではほとんど開くこともなくなってしまったけれど、時々ふとした瞬間に─眠る前に母が読み聞かせをしてくれたこととともに─絵本のなかの物語について思い出すことがある。そんなとき、私は物語の世界に呼ばれたのだと感じて嬉しくなる。すべてがたっぷりと甘く満ち足りていた黄金時代。物語が、私に再びおいでと言ってくれている。瞬間、私はそちらの世界に戻ってゆく。